連続と不連続、もしくは離散の狭間で

 「音楽とは、連続的なものであるか、離散的なものであるか」という問いをめぐる考えの、私にとってのきっかけは、あるとき、ある人(言うならば、音楽というものについて権威を持っている人、教授のような)に、「音楽は(唯一の)離散的な芸術である」と言われたこと、そして、それについて、反論はできないながらも、やや硬質な違和感を抱いたことです。

 

 「音楽は離散的な芸術である」と主張し得るのはなぜか。それは、楽譜というものがあり、そこにはAとかCとかといった音高と、4分音符なんかといった音の長さが決められているから。音高も音の長さも、離散的なものだからです。例えば、EとFの間、もう少し言えばE3とF3の間の音というのは、楽譜上存在しません。

 

 他の芸術、例えば絵画と比較してみましょう。絵において、例えば色というのは離散的な値を取っているでしょうか。当然、デジタルカメラで写真を撮ったりすると、そのデータは離散的な値を取るわけですが、作品そのものの色は、絵具の配合や筆のタッチにより、一つとして同じ色はありません。色は明らかに連続的なものです。そして、その色が存在している領域––––音楽では”音の長さ”にあたるでしょうか––––についても同じことです。

 

 「音楽」が離散的か連続的かは置いておいて、「楽譜」は明らかに離散的なものだというのは、議論を待たないことのようです。

 

 

 さて、いま意図的に「音楽」と「楽譜」という2つの言葉を使い分けたわけですが、他の芸術と比較した時の、音楽という芸術の特異性は、明らかに創作が2つの段階を経るということでしょう。曲を作る、つまり「楽譜」を作るという段階と、それを演奏して、私たちの耳が受け取る形の「音楽」を作るという段階です。

 

 もう少し言えば、乱暴な言い方ですが、楽譜は離散的なものであり、演奏は連続的なものだ、と言うことができます。さらには、演奏は、必ず楽譜からはなんらかの形で「ずれている」とも言うことができます。

 

 例えば、完全に離散的な状態(楽譜に最も忠実な状態)の音楽、つまり、よく言われる例えですが、楽譜をそのままパソコンに打ち込んで、機械で音を出しました、というような演奏が受け入れられるか、といえば違うでしょう。私たちが求める音楽というのは、離散的な楽譜の状態ではなく、そこから発展した、なんらかの連続的な状態のものでしょう。

 

 

 私たちに、不連続なものはフィットしない。なぜか、そのもっとも原理的な答えは、「私たちは決して不連続な存在ではないから」というところに尽きるような気がします。

 

 連続な存在であるがゆえに、私たちの中に浮かび上がる思考や感情は、いつも白黒つけられるわけではない。私たちがその楽譜から受け取る「音楽」も、決して不連続なんかではなくて、連続なもの。その音楽を表現するときに、音楽を私たちにフィットさせずにはいられないのではないか。

 

 また、少し脱線してしまうのですが、これと似ているようで似ていない、しかしながらやはり特異なのは書道、もっと広く言えば、広義のカリグラフィーではないでしょうか。これも、例えば題材の数ということでいうと、最も一次的な題材である字の数というのは多く見積もって数万字ですよね。(例えば絵では、題材、つまり描く対象というのは、(この世界に存在するものについてのみ考えても、)無限に考えられる。)しかも誰かが新たに生み出すといった、音楽で言えば作曲という行為(字を新たに作る行為)があるわけではない。その枠、つまり与えられた文字という枠の中でしか身動きが取れないまま、何かを表現しようとする。

 

 そう、カリグラフィーにおける文字は、音楽における楽譜と同じで、私たちは、楽譜という決められた枠の中でしか身動きが取れないけれど、それでも何かを表現しようとする。いや、身動きが取れないからこそ、抵抗のエネルギーが生まれるのではないか。

 

 

 連続と不連続の狭間で、いえ、不連続から連続に向かって、私たちは進んで行こうとします。楽譜という不連続な枠組みの中で、もしくは、その不連続な支配的な力に引き留められながら。その枠組みから逃れようと抵抗しながら、私たちにふさわしい形を求めて、身悶えしながら、連続へと向かっていきます。

 

 音楽には、当然いろいろな切り口があり、これはそのうちの一つなのだと思います。もしくは、僕がこういった音楽を好む、ということなのかもしれません。そして、だからこそ、まずは枠組みをきちんと見定め、自分がどう進みたいと思うか、そのフィーリングを大事にしたいのだと思います。

 

 

 例によって支離滅裂な文章を読んでくださってありがとうございます。コンクール、がんばりましょう、とは言わずに、いい音楽をしましょう、と言うことにします。